FDCと予知保全は同じではない|EES・R2R・SPCの地図をSEMI E133とSEAJ用語集で

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FDCと予知保全は同じではない|EES・R2R・SPCの地図をSEMI E133とSEAJ用語集で

「FDCを入れたので、予知保全は始まっています」。この一文には、少なくとも三つの機能が畳み込まれています。SEAJの用語集はFDCの一語に保全の実施まで含めますが、SEMI E133の公開要旨は、fault detection(FD)、fault classification(FC)、fault predicti...

「FDCを入れたので、予知保全は始まっています」。この一文には、少なくとも三つの機能が畳み込まれています。SEAJの用語集はFDCの一語に保全の実施まで含めますが、SEMI E133の公開要旨は、fault detection(FD)、fault classification(FC)、fault prediction(FP)を別々の工程制御システムとして並べます。同じ3文字の下に、異常を見つけるだけの仕組みも、故障を前もって当てる構想も入るということです。自社のFDCが検知・分類・予測のどこまでを担っているか。それを表一枚に書き出すのが、この記事のゴールです。


30秒でわかるFDC

項目内容
ひとことで略語はFault Detection & Classification(検知と分類)。ただしSEAJの定義文は、予兆の把握と保全の実施まで含む
工場での意味「いつもと違う」を見つける仕事と、「次に壊れる」を当てる仕事は、別々に考える
混同しやすい言葉Run-to-Run制御(レシピを直す)、SPC(測定値のバラツキを傾向管理する)、予知保全(SEAJの用語集には項目がない)
最初の手間自社の仕組みについて、検知・分類・予測・保全の実施を○△×で埋める表を一枚
この記事の根拠SEMI E133-0524の公開要旨(本文は有料のため未参照)と、SEAJ「半導体製造装置用語集 Factory Integration」

「FDCを入れた」と「予知保全ができる」の間には、まだ段差がある

異常を見つけることと、故障を前もって当てることは、規格の上でも別の機能です。

装置の稼動データを監視し、いつもと違う波形が出たら知らせる。FDCと聞いて多くの人が思い浮かべるのは、この姿でしょう。では社内の資料に「FDC導入済み、予知保全の基盤あり」と書いたことはないでしょうか。書いた瞬間に、検知の仕組みが予測の仕組みに格上げされています。

どちらの読み方が正しいかを決める前に、言葉の出どころを二つ確かめておきます。日本の装置業界団体であるSEAJがまとめた用語集と、SEMIの工程制御システム向けインターフェース規格E133です。二つを並べると、FDCという3文字が指す範囲がずれていることが見えてくる。


SEAJの用語集は、FDCに予兆と保全まで抱えさせている

名前は「検知と分類」、定義文の中身は「予兆の把握から保全の実施まで」。一つの項目の中で、指す範囲が食い違っています。

「装置の稼動データを詳細に取得してリアルタイムに解析して故障の予兆を捉えて、ダウンの前に保全を実施して製品のスクラップや品質の劣化を防止する。」

SEAJ「半導体製造装置用語集 Factory Integration」FDCの項

定義文を動詞で区切ると、取得する、解析する、予兆を捉える、保全を実施する、防止する、の五つが並びます。略語にある「分類」は、定義文の本文には出てきません。代わりに入っているのが、予兆を捉えることと、保全を実施すること。検知の仕組みというより、保全の段取りまで含んだ業務の説明に近い書き方です。

この用語集に「ない」言葉にも目を向けておきます。「予知保全」「PdM」「EAP」は、いずれもこの用語集には項目がありません。保全で見出しになっているのは「予防保全/PM」で、説明は「生産装置の予防保全の全般をいう」。「予測」という語が出てくるのは、Run-to-Run制御の項でフィードフォワード制御を説明する「"予測して"プロセスを変更する」と、搬送のダイナミックシミュレーションの項の二か所です。どちらも故障を当てる話ではありません。

この用語集の範囲で言えば、予知保全は見出し語として定義されていない。FDCの定義文の中に、「予兆」という形で溶け込んでいるだけなのです。


SEMI E133は、検知・分類・予測を別々の機能として並べる

E133が決めているのは、異常を見つけるやり方ではなく、機能同士のつなぎ方です。

"...process control systems (PCS) such as run-to-run (R2R) control, fault detection (FD), fault classification (FC), fault prediction (FP), statistical process control (SPC), etc."

SEMI E133-0524 Specification for Automated Process Control Systems Interface(SEMI Store 公開要旨)

FD、FC、FPがカンマで区切られ、R2RやSPCと同じ列に置かれています。検知と分類と予測は、それぞれ独立した工程制御システム(PCS)として扱われているわけです。R2Rという略語もこの要旨の表記から来ています。SEAJの用語集の見出しは「Run-to-Run制御」で、R2Rという略記はありません。

要旨によれば、この規格の焦点は "defining PCS capabilities, functional groups (FGs), and FG interfaces"。PCSの能力、機能グループ(FG)、FGのインターフェースを定義することです。どのアルゴリズムで異常を見つけるか、どれほどの精度で予測するかを決める規格ではない。PCS同士、そして装置データの収集を含む周りの工場システムと、データをどうやり取りするかを決めるものです。XMLによるメッセージングは、E133に含まれる下位規格E133.1が受け持ちます。

E133の本文は有料で、この記事は公開要旨の範囲だけを根拠にしています。それでも、要旨の参照規格の欄から読み取れることがあります。別売りの参照規格として並ぶのは次の四つです。

  • E121:半導体製造向けアプリケーションで、XMLの書き方と使い方を揃えるためのガイド
  • E125:装置が出せる変数・イベント・例外と装置の構成を、装置メーカーが記述して提供する方法(EqSD)
  • E134:名前を付けたデータ収集計画で、イベント・例外・トレースのデータを装置から取得する仕組み
  • E148:時刻の同期が必要な工場内のコンピューターの時計について、要件を定める規格

装置が何を出せるかを知り(E125)、計画を立てて集め(E134)、時計を揃える(E148)。工程制御システムのインターフェースは、この土台の上に立つ前提で組まれている、と読めます。


器・入口・判断・行動に分けて、工場の言葉で並べ直す

EES・FDC・R2R・SPCは、同じ棚に並ぶ商品ではありません。置かれている層が違います。

層用語用語集・規格の言い方工場の言葉で
器EES装置エンジニアリング業務を支援するシステム。デバイスメーカ側のF-EESと、装置メーカやサプライヤ側のL-EESに分類される(SEAJ)工場側と装置メーカー側が、それぞれ持つ「装置を診る仕組み」の総称
入口EDA(I/F-A)装置などがF-EESとデータを受け渡すSEMIのインターフェース。E120・E125・E132・E134などから構成される(SEAJ)装置からデータを吸い上げる配管
判断FDC・SPC・APC(総称してAEC)AECは「APC、SPCやFDC等の技術を利用した先進的な装置制御の総称」(SEAJ)。PCSとしてはFD・FC・FP・R2R・SPCが別々に並ぶ(E133要旨)装置の様子、処理結果、測定値を、それぞれ見張る目
行動保全・レシピ修正・傾向管理FDCは「ダウンの前に保全を実施」、Run-to-Run制御は「レシピに修正を加える」、SPCは「バラツキを傾向管理」(SEAJ)判断の結果で、誰が何を動かすか

判断の層にいる三つの目は、見ている対象が違います。FDCが見るのは装置の稼動データ。Run-to-Run制御は、1枚あるいは1バッチの処理が終わった時点で膜厚分布などの処理結果を測り、次の処理のレシピを直す。SPCは各測定工程で集めたデータのバラツキを、傾向として追います。

動かす相手も違う。FDCの先にあるのは保全の段取りで、Run-to-Run制御の先にあるのはレシピ、SPCが受け持つのは、製造条件や測定データのバラツキの傾向管理です。ここを混ぜたまま評価すると、レシピの調整で解くべき問題を、FDCの成果として測ろうとすることになります。

この表にEAPは出てきません。先に触れた通り、SEAJの用語集には項目がないからです。社内でEAPと呼んでいるものが入口の層のどこを担っているかは、工場ごとに書き残しておくしかありません。


「FDC機能あり」を聞き直す三つの場面

「FDC機能あり」と書かれた提案を受けたとき

E133の並びで聞き直します。それはFD(検知)ですか、FC(分類)までですか、FP(予測)も含みますか。答えが「検知と分類」であれば、SEAJの定義文にある「予兆を捉える」部分と「保全を実施する」部分は、別に用意することになります。良し悪しの話ではない。何を買うのかが、3文字のままでは決まらないという話です。

社内で「予知保全プロジェクト」を立ち上げるとき

企画書の一行目に「予知保全」と書くなら、その語をE133の言葉で言い換えた定義を添えておくと、後で揉めずに済みます。業界団体の用語集にも見出しのない言葉は、部署ごとに意味が変わり得るからです。保全課は「壊れる前に部品を替えること」、生産技術は「波形の異常を見つけること」、経営層は「計画外の停止が減ること」と読むかもしれない。どの読みも、FD・FC・FPと保全の実施のどこかに当てはまります。

予知保全を記録と運用の側からどう始めるかは、以前の記事『予知保全は何から始めるのか』で書きました。今回はその手前にある、言葉の地図の話です。

アラームと波形を突き合わせようとしたとき

予兆を探す作業は、過去の異常の記録と、その前後の稼動データを並べるところから始まります。ここで効いてくるのが、E133が参照規格に挙げたE134とE148です。E134はトレースデータの取得を、E148は時計の同期を扱う。装置の時計とサーバーの時計がずれていれば、アラームの直前の波形を正しく切り出せません。アラームの記録が上位にどう届くかは、『SECS/GEMのアラーム履歴は予知保全の最初のデータになる』で扱っています。


来週の月曜日に作る、表一枚

自社のFDCを、動詞ごとに○△×で埋めてください。答えが出ない行こそ、次に確かめる場所です。

機能確かめる問い自社の答え(○△×)根拠の画面・帳票担当
FD(検知)異常が出たとき、誰に、何で知らせているか
FC(分類)異常の種類や原因の見当を、仕組みが付けているか、人が付けているか
FP(予測)「次のPMまでに」のように、先の時点について何かを出しているか
保全の実施検知や予測の結果が、保全の作業指示まで届いているか
Run-to-Run制御処理結果を測って次のレシピを直す仕組みが、FDCとは別にあるか
SPC測定値のバラツキを、傾向として追っているか
土台:時刻装置とサーバーの時計は揃っているか(E148が扱う領域)
土台:収集何を、どの計画で集めるかが文書になっているか(E134が扱う領域)

FPの行が×なら、今あるのは検知と分類の仕組みです。「予知保全」と呼ぶのは、FPの行に○が付いてからでも遅くない。×が並ぶこと自体は問題ではありません。どの行が×かが分かれば、次の予算をどこに付けるかを一行で説明できるようになります。


問うべきは「FDCを入れたか」ではなく「どの動詞まで仕組みに任せたか」

FDCは製品の名前というより、検知から保全までの動詞の束に貼られたラベルです。SEAJの定義はその束を一語に収め、E133は束を解いて、一本ずつにインターフェースを付けようとしている。どちらも間違いではありません。困るのは、束のまま買って、解いたつもりで評価することです。

表を一枚作っておけば、ベンダーとの打ち合わせも、社内の予算の説明も、同じ地図の上で話せる。3文字の略語に頼らず、動詞で語る。次にベンダーが「FDC搭載」と言ったら、表のFPの行を指差して聞けばいい。

参考資料

T&C

techandchips

techandchipsは、今ある装置とシステムを活かす工場自動化で熊本半導体クラスターの製造業を支えています。装置・システム連携(EAP/MES)、見える化・予知保全、トレーサビリティ、AI文書自動化まで一貫して対応します。

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