東京エレクトロン、ディスコ、レーザーテックのFY2026決算が出揃った。三社はどれも『HBMとAIサーバー向けで過去最高』を語るが、数字の伸びかたとコメントの重心を並べて読むと、HBM4/12Hi世代の受益構造は『みんなが平等に潤う』形ではない。成膜・エッチング、ダイシング、マスク検査——工程ごとに『誰が何を売っているか』を一度整理し直すべき局面だ。
📌 KEY POINTS
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 🏭 東京エレクトロン FY2026 | 売上・営業利益とも過去最高を更新、HBM/AIロジック向けエッチング・成膜装置が牽引 |
| 🪚 ディスコ FY2026 | HBM向け高精度ダイシング・グラインディングが受注残を押し上げ、稼働率は高水準で推移 |
| 🔍 レーザーテック FY2026 | EUVマスク欠陥検査(ACTIS/MATRICS)が牽引、High-NA EUV向け次世代機の引き合い強化 |
| 📈 HBM4/12Hi 立ち上げ | 2026〜2027年に本格量産、スタック層数増で工程ステップ×装置台数が非線形に増加 |
| ⚖️ 受益の非対称性 | ダイシング・マスク検査は『独占に近いポジション』、成膜・エッチングは『競合含む厚い市場』 |
三社決算を並べて見る——共通点と違い
『過去最高』という共通見出しの下で、利益の出どころはまったく違う。
4月中旬から下旬にかけて、日経新聞とEE Times Japanが報じた東京エレクトロン(TEL)、ディスコ、レーザーテックのFY2026決算は、いずれも売上・営業利益の記録更新を伴う内容だった。三社とも決算説明資料で『HBM関連』『AIサーバー』『先端ロジック』を成長ドライバーに挙げており、表面的には『日本の半導体装置3強、そろってAI特需を取り込み中』という絵になる。
ただし、数字の内訳と今後のガイダンスの温度差を読むと、受益のかたちはかなり違う。TELは装置ポートフォリオが広く、ロジック・DRAM・NAND・HBM・ファウンドリ全方位から受注を積む『総合商社型』の伸び方だ。ディスコは、HBMスタックの薄化・ダイシング・グラインディングに特化した『工程特化型』で、装置の買い替え需要ではなく『HBM層数の増加そのもの』が売上を押し上げている。レーザーテックは、EUVマスク欠陥検査という『ほぼ独占状態のニッチ』で、台数が少なくても1台あたりの単価と保守収益が桁違いに大きい『寡占型』である。
HBM4/12Hi がもたらす工程ステップ増加の幾何学
層が増えると、装置需要は線形ではなく非線形に増える。
HBM3E(現行世代、8〜12段スタック)からHBM4(12〜16段スタック想定)への移行は、一般に『世代交代』と表現されるが、工程側から見ると『ステップ数のインフレ』に近い現象だ。ひとつのHBMスタックを作るには、個々のDRAMダイを薄化し、TSV(シリコン貫通電極)を形成し、ダイシングして良品ダイを選別し、積層・接合していく。層が12段、16段と増えるごとに、薄化・ダイシング・検査の工程回数はほぼ線形に増え、歩留まりロスを吸収するための冗長検査・冗長テストは層数の二乗に近いオーダーで増える。
この幾何学が、ディスコの受注残の伸びにほぼ直結している。日経とEE Times Japanの報道に沿えば、ディスコはHBM向けの高精度ダイシングブレード(DFD/DFG系)と、ウェハ薄化のためのグラインダーで、HBM顧客(SK hynix、Samsung、Micron)の増産計画に張り付いた納入ペースを続けている。ここは他社が容易に割って入れる領域ではない。ダイシング時のチッピング許容幅はサブミクロン単位で、ブレード材質と機構設計に長年蓄積したノウハウが効くためだ。
マスク検査——レーザーテックの『数少なく、しかし外せない』ポジション
レーザーテックが売っているのは台数ではなく、『EUV歩留まりを担保する安心』である。
EUVリソグラフィーでは、マスクに乗った1個のパーティクルやパターン欠陥が、露光されるウェハ全面に複製される。したがってEUVマスクの欠陥検査は『やらない』という選択肢がない。レーザーテックのACTIS(EUVブランクマスク欠陥検査)とMATRICS(EUVパターンマスク検査)は、実運用可能なアクチニック(13.5nm光)検査装置としてほぼ独占の位置を占めてきた。
FY2026決算の注目点は、この既存ラインがHBM4/12Hi立ち上げ期の先端ロジック(TSMC N2/A16、Samsung SF2、Intel 18A/14A)向けに回転率を上げている点だけでなく、High-NA EUV世代向けの次世代検査機の引き合いが強くなっている点だ。High-NA EUVはスループットが上がる一方でマスクの欠陥許容度が厳しくなり、マスク検査1台あたりの役割はむしろ増える。『High-NA時代にマスク検査は短命化する』というかつての懸念は、少なくともFY2026時点では成立していない。
TELの『厚い市場』と、成膜・エッチングの競合構図
TELが最大売上を出しているが、ここは『日本勢が寡占』ではない。
TELは決算コメントで、HBM向けDRAM成膜・エッチング、先端ロジック向けエッチング、NAND向け高アスペクト比エッチングの伸長を強調している。ここは重要な補助線がひとつある——成膜・エッチングの市場は、Lam Research、Applied Materials、ASMLというグローバル大手との競合市場だ。TELは日本勢だが、ディスコやレーザーテックのような『日本勢がほぼ独占』の構図ではない。
このため、TELの受益構造は『AI需要×TELシェア』の掛け算で決まる。市場は確実に拡大しているが、取り分はシェア競争で変動する。直近、TELはDRAMのキャパシタ工程や、NANDの超高アスペクト比エッチング(チャネルホール加工)で評価を得ており、HBM4世代でもこの分野を中心にシェアを伸ばすシナリオが語られている。ただし『HBM需要が増える=TEL受注が比例で増える』と短絡するのは精度が低い読み方だ。
装置生態系マップ——誰がどこを押さえているか
HBM4/12Hiブームは、工程ごとに異なる企業へ、異なる強さで効く。
整理すると、次のような受益構造になる。前工程のDRAMセル形成(成膜・エッチング)はTEL/Lam/AMATの三つ巴で、日本勢は『強いが独占ではない』レンジ。リソグラフィーはASML(EUV本体)が握り、マスク検査はレーザーテックが押さえる寡占ポジション。後工程側では、ウェハ薄化・TSV周辺のグラインディングとダイシングをディスコが事実上リードし、ワイヤーボンダーや接合工程では新川(現ASMPT傘下)やBESIなどがHBM積層に関与する。テスト工程はアドバンテストがATEでHBM/AIロジック向けに高いシェアを持つ。
この地図を踏まえると、FY2026以降のHBM4/12Hiブームで『もっともピュアに』受益するのは、工程独占度が高く競合が入りにくい領域——具体的にはディスコ(ダイシング/薄化)、レーザーテック(マスク検査)、アドバンテスト(HBMテスト)となる。TELは最大の売上規模を叩き出すが、その中でHBM純増分がどの比率を占めるかを IR資料で見極める必要がある。
💡 製造業・サプライヤー観点の示唆
- 『日本装置3強』を一枚岩で語らない: TEL、ディスコ、レーザーテックは受益構造がまったく異なる。投資判断・協業判断では工程別の競合地図を当てて考える。
- ディスコ/レーザーテック/アドバンテストは『工程独占度』で評価: HBM4/12Hiの層数増加がそのまま売上増加に写る領域。顧客の増産計画と装置の据付スロットを四半期ごとに追う価値が高い。
- TELはシェア×市場拡大の掛け算で見る: HBM需要増がそのまま比例しない。DRAMキャパシタ・NANDチャネルホール・ロジックエッチングといったサブセグメントごとの競合状況を分離して読む。
- 後工程パッケージング装置は『第二の本命』: HBM層数増→薄化・ダイシング→積層・接合→テストと、後工程の各段階で装置負荷が雪だるま式に増える。日本の中堅装置メーカーにも波及余地が大きい。
参考資料
- 日本経済新聞, 東京エレクトロン・ディスコ・レーザーテック FY2026決算関連報道 (2026-04)
- EE Times Japan, 日本半導体装置3社の決算と先端パッケージング動向 (2026-04)
- 東京エレクトロン IR, FY2026決算資料
- ディスコ IR, FY2026決算資料
- レーザーテック IR, FY2026決算資料
- Reuters, HBM4/12Hi 量産立ち上げと主要DRAMベンダー動向 (2026-04)
今後の展望
HBM4/12Hiの本格立ち上げが進む2026〜2027年は、装置メーカーにとって『受注の波』を受ける時期になる。ただし波の高さと恩恵は工程独占度で大きく変わる。ディスコ・レーザーテック・アドバンテストのような寡占ポジションの企業は、層数・ロジックノード進展に応じて受益を直接取りに行ける。TELのような総合型は、AI特需という追い風のなかで、セグメント別シェア戦いの勝敗によって取り分が上下する。投資家・サプライヤー・装置ユーザーのいずれにとっても、次の注目データ点は、各社2026年後半四半期の受注残推移と、HBM顧客(SK hynix、Samsung、Micron)の増産投資計画更新である。
