東京ビッグサイトの会場を歩き終えて、確信に近い感覚がひとつ残った。「熊本・台湾・韓国を結ぶ東アジア半導体ブリッジは、もう抽象的な構想ではない」——SusHi Tech Tokyo 2026の現場で、私たちはその胎動を肌で感じた。
東京ビッグサイト、SusHi Tech Tokyo 2026の現場で見たもの
2026年4月27日、東京ビッグサイトでSusHi Tech Tokyo 2026が開幕した。会期は4月27日から29日。主催側の発表によれば、参加スタートアップは750社、来場者見込みは60,000人、参加都市・地域は49カ国にのぼる。スタートアップ展示の400社以上が日本国外からの出展で、まさに「東京で開かれるアジア最大級のグローバル・ピッチ・フロア」と呼ぶにふさわしい光景だ。
例年の展示会と決定的に違うのは、構造そのものだ。今年の重点テーマはAI、ロボティクス、レジリエンス、そしてエンタテインメント。会場の一角では「リバース・ピッチ」と呼ばれる新方式が動いていた。スタートアップが大企業に売り込むのではなく、大企業や自治体が「未解決の課題」を壇上で開示し、スタートアップ側に解を呼びかける——主従が反転した光景は、日本市場が外資・新興技術に対してどれほど切実に開きつつあるかを物語っていた。
台湾スタートアップとの出会い — IC設計、AIアクセラレーション、半導体パッケージング
会場で最も印象的だったのは、台湾からのスタートアップの濃密な存在感だった。
ブースを回りながら、IC設計に特化した若いチーム、エッジAI推論アクセラレーターを携えたファブレス系スタートアップ、半導体パッケージング・テスト周辺の専門ツールを掲げる企業——それぞれの分野で、台湾発の技術者たちが英語と中国語と片言の日本語を行き来しながら、日本側パートナーを真剣に探していた。
背景には、台湾政府の動きがある。Focus Taiwanの報道によれば、国家発展委員会(NDC)が今回のSusHi Tech Tokyoに合わせて代表団を率いて訪日し、日本側のエコシステムとの接続を本格化させている。これは単発の視察ではなく、半導体上流(設計・IP・EDA)から下流(パッケージング・テスト)までを抱える台湾が、日本市場と「面」で接続する意思表示だ。
私たちが立ち止まって話を聞いたチームの多くは、共通して「熊本に行きたい」「日本の自動車・産業機器エンドユーザーにアクセスしたい」と語った。TSMCの存在によって、彼らにとって日本は「TSMCサプライチェーンの先にある巨大な需要地」として明確に位置づけられている。
熊本・台湾・韓国 — 形作られる東アジア半導体トライアングル
会場で得た手触りを、もう少し広い地図の上に置いてみたい。
熊本では、JASM(Japan Advanced Semiconductor Manufacturing)の第1工場が28nm/16・12nmで月産55,000枚規模の量産を継続している。第2工場については、Taipei Times・Focus Taiwanによれば、台湾政府が3nmプロセスでの建設を承認し、装置搬入と立ち上げは2028年を目標としている。Tom's Hardware・TrendForceなど業界系メディアでは、AI需要の高まりを受けて当初計画の6/7nmから先端ノードへの引き上げ案が繰り返し報じられてきた。スケジュール面では延期や調整も伝えられているが、方向性は一貫している——熊本は「枯れたノードの量産拠点」から「先端ロジックの戦略拠点」へと再定義されつつある。
韓国では、SamsungとSK HynixがHBM(高帯域メモリ)でAIサーバー需要の中核を握る。NVIDIAをはじめとするAIアクセラレーターの性能を律速するのは、もはやロジックそのものではなくHBMの供給量だ。
そして台湾は、TSMCを中核としたIC設計・先端ロジック・パッケージング技術の本陣であり続ける。同時に、IC設計・EDA・テスト周辺で世界トップ級の中小スタートアップ層を抱えている。
3つの拠点は、それぞれが独立した競争相手というより、AI時代の半導体サプライチェーンを構成する「分業された機能ブロック」として再編されつつある。熊本のロジック量産、台湾の設計・先端パッケージング、韓国のHBM——この三角形が機能してはじめて、AIデータセンターは現実の電力と物量に着地する。
次は、AI Taiwan Expoへ — 台湾現地でのもう一つの観察
SusHi Tech Tokyoでの出会いは、点で終わらせるべきではない。
私たちは、次のステップとして台湾で開催されるAI Taiwan Expo(AI EXPO Taiwan)への参加も視野に入れている。AI Taiwan Expoは台湾発のAI専門展示会で、2026年は6月24日(水)〜26日(金)の3日間、台北エキスポドーム(Taipei Expo Dome/圓山)を会場に開催される。テーマはAIの社会実装——医療・製造・金融・公共といった異領域への橋渡しに焦点が当たっている。
台湾現地で会うべきは、東京で名刺交換をしたチームの「次の階層」だ。IC設計IPの担当者、ファウンドリ営業、EDA・テスト周辺のCEO層、そしてAIの社会実装を担う台湾系スタートアップの開発リーダーたちと、より時間をかけて話したい。SusHi Tech Tokyoが「東京で会えるアジア」だとすれば、AI Taiwan Expoは「現場で見る台湾エコシステムそのもの」になる。6月24〜26日、台北エキスポドームで——私たちはその場にも足を運ぶつもりだ。
ブリッジを架ける — 技術、人、資本
「ブリッジ」という言葉は、ともすれば抽象的に響く。だが具体に分解すると、その輪郭は明確だ。
ひとつめは技術のブリッジ。日本の素材・装置メーカー、熊本JASMの量産ライン、台湾のIC設計・パッケージング、韓国のHBM——この縦軸の中で、どこに新しい接続点を作れるかを継続的に観察する。とくに先端パッケージング(CoWoS、SoIC、HBM3E/HBM4を含む2.5D/3D実装)は、3地域いずれにも開発・量産の余地がある。
ふたつめは人のブリッジ。今回のSusHi Tech Tokyoでは、日本語・中国語・英語が会場で混在していた。技術者・経営者・投資家のレイヤーが、地域を越えて移動し始めている。熊本では台湾人エンジニアの長期駐在が増え、東京では台湾系ファンドのオフィス開設が進む。
みっつめは資本のブリッジ。日本のCVCや政府系ファンド、台湾のVC、韓国の財閥系投資部門——これらが同じスタートアップに同時に出資するケースが、今後数年で目立って増えていく。
これからのTech and Chips
私たちTech and Chipsは、半導体・AI・製造業の交差点を観察し続けるメディアだ。
SusHi Tech Tokyo 2026の現場で得た手触りと、次に向かう台湾での観察を、これからの記事に積み上げていく。熊本・台湾・韓国を結ぶ東アジア半導体ブリッジが、どの企業のどの製品で具体に立ち上がっていくのか——その「個別の事例」を、できるだけ早く・できるだけ近くで取材し、日本語で記録していく。
会場で交換した名刺の束を整理しながら、改めて思う。半導体産業の地政学は、ニュース見出しの中だけでは見えない。ビッグサイトの通路で交わされた立ち話、英語と中国語が混じる短い相談——そこにこそ、次の数年を形づくるシグナルが宿っている。
参考資料
- SusHi Tech Tokyo 2026 公式サイト
- TechCrunch: SusHi Tech Tokyo isn't a conference — it's a deal room with 60,000 people (2026-04-21)
- The Japan Times: SusHi Tech Tokyo underway, bringing startups, big companies and investors together (2026-04-27)
- JStories: More than 700 startups to gather at SusHi Tech Tokyo 2026
- Focus Taiwan: NDC to lead delegation to Japan's innovation conference (2026-04-24)
- Taipei Times: Taiwan government approves TSMC's 3nm upgrade for second Japan fab (2026-04-01)
- The Diplomat: TSMC's Kumamoto Fab Upgrade — A Security-Driven Reconfiguration of Indo-Pacific Chip Competition (2026-04)
- AI EXPO Taiwan 概要 (Wikipedia)
- DIGITIMES: AI Expo Taiwan 2026 opens with focus on Taiwan's hardware edge (2026-03-25)
