JASM「国内調達60%」は何の60%か|間接材・第1工場限定という一次資料の但し書き

Published:
JASM「国内調達60%」は何の60%か|間接材・第1工場限定という一次資料の但し書き

JASMの「国内調達60%」という数字は、あちこちで引用されています。出どころのスライドを開くと、グラフの題名は「JASMにおける間接材の現地調達比率」で、右肩に「*1第1工場の目標数値」という但し書きが付いている。60%が測っているのは間接材であり、対象は第1工場です。熊本第2工場に3nmプロセスを使う計画がT...

JASMの「国内調達60%」という数字は、あちこちで引用されています。出どころのスライドを開くと、グラフの題名は「JASMにおける間接材の現地調達比率」で、右肩に「*1第1工場の目標数値」という但し書きが付いている。60%が測っているのは間接材であり、対象は第1工場です。熊本第2工場に3nmプロセスを使う計画がTSMCの年次報告書に書かれた今、この但し書きが効いてきます。同じページには「国内調達へ変更した間接材・サービスの例」が並び、七つのうちの一つが「設備メンテナンス」です。


この記事の要点

項目内容
出どころ内閣官房「国内投資拡大のための官民連携フォーラム」第6回 資料1「工場概要説明」(JASM 取締役社長 堀田祐一、2025年1月27日)
グラフの正式名称「JASMにおける間接材の現地調達比率*1」。45%が2024年(現況)、50%が2026年目標、60%が2030年目標
但し書き「*1第1工場の目標数値」。対象は間接材。間接材と直接材の線引きを定義した文は資料にない
取引の実績「TSMCの既存サプライヤーに加え、2024年2月時点で140社以上と新たに取引を開始」
転換品目の例テストウェーハ/製造用薬品/クリーンルーム製品(クリーンスーツ、マスク等)/構内警備・食堂サービス/化学品充填作業/パーツ洗浄/設備メンテナンスの七つ。全量ではなく「例」
資料の時点2025年1月27日。「2026年目標」は発表時点の目標であり、達成実績ではない

60%が乗っているグラフの、正式な題名

数字そのものは合っています。落ちているのは、その数字が何を測っているかです。

資料は内閣官房の「国内投資拡大のための官民連携フォーラム」第6回に提出された資料1「工場概要説明」。話し手はJASM取締役社長の堀田祐一氏で、日付は2025年1月27日です。全7ページのうち、調達を扱っているのは5ページ目の一枚だけ。会社概要、マイルストーン、生産体制、環境の話が並ぶ中に、その一枚が挟まっています。

そのページの左側に折れ線グラフがあります。題名は「JASMにおける間接材の現地調達比率*1」。ラベルの付いた値は三つで、45%が「2024年(現況)」、50%が「2026年目標」、60%が「2030年目標」に対応します。x軸には2023年の目盛りもあり、線はそこから立ち上がっている。ただし2023年の点に数値ラベルは印刷されていません。PDFの図形座標から逆算すれば見当は付くものの、原文に刷られていない数字を記事に書くわけにはいかないので、ここでは触れないでおきます。

題名の右肩に付いた「*1」を追うと、同じページの下にこう書かれています。

「*1第1工場の目標数値」

内閣官房 官民連携フォーラム 第6回 資料1、5ページ

紛らわしいのは、一つ前の4ページ目にも「*1」があることです。注番号がページごとに振り直されていて、4ページ側の文言は「*1 :第1工場と合算」。こちらは生産プロセス(40nm、28nm/22nm、16nm/12nm、7nm/6nm)、月間生産能力(10万枚以上、300mmウェーハ換算)、採用人数(計3,400名以上)の三つに付いています。5ページの「第1工場の目標数値」とは文言の違う別の注です。引用のときは、どちらのページの注なのかまで添える。それだけで意味の取り違えは防げます。

「間接材」の線引きは、この資料には書かれていない

間接材が何を含み、何を含まないのか。7ページを通しても、それを定義した文は出てきません。

手がかりは二つあります。一つは、同じページの右側に置かれた「国内調達へ変更した間接材・サービスの例」という箇条書きです。七項目のうち、先頭に来るのがテストウェーハと製造用薬品でした。

「間接材」の線は、事務用品や清掃よりずっと工程寄りに引かれています。

もう一つの手がかりは、折れ線の近くに小さく添えられた注記です。45%の点の下に「ケミカル等」、50%の点の下に「特殊ガス等」「デベロッパー」「シンナー」「スラリー」が、下線付きで置かれています。位置と書式からすると、その時点までに国内調達へ切り替わった品目を書き添えたものと読むのが自然でしょう。ただし資料に説明文はありません。定義文ではない以上、これらを「直接材の例」と読み替えることもできない。

言えるのは一点だけです。45から50、60%と伸びるこの曲線は、間接材について第1工場を対象に置かれた目標値です。間接材以外の調達について、この一枚は沈黙しています。

七項目の末尾に「設備メンテナンス」が座っている

七つ並ぶうち、後ろ半分の四つは役務です。

構内警備・食堂サービス、化学品充填作業、パーツ洗浄、設備メンテナンス。棚に並ぶ部材ではなく、人と手順で成り立つ仕事が四つ続きます。ブロックの見出しからして「間接材・サービスの例」で、サービスは付け足しではなく最初から入っている。JASMが自社の資料に、国内調達へ切り替えた例としてこの語をそのまま印刷しました。装置ベンダーや保全を請け負う会社にとっては、求人票より具体的な情報でしょう。

七項目が網羅でないことも押さえておきたい。見出しは「例」です。名前の挙がっていない役務が対象外だという意味にはなりません。

実績の側も同じページにあります。

「TSMCの既存サプライヤーに加え、2024年2月時点で140社以上と新たに取引を開始」

内閣官房 官民連携フォーラム 第6回 資料1、5ページ

2024年2月時点の累計です。2026年の今この数字がいくつになっているのかを、この資料は教えてくれない。それでも、扉が開いていること自体は一次資料で確認できます。

この一枚が語っているのは調達の総量ではありません。調達の入口がどこに開いているか、です。

入口の話だと分かれば、月曜の動き方も決まります。提案書を書く側なら、自社の役務を説明する見出しをJASMの語に寄せる。「設備保全サービス」ではなく「設備メンテナンス」、「部品クリーニング」ではなく「パーツ洗浄」。調達側が自分の資料で使っている分類語に揃えておくほうが、社内で書類が回ったときの引っかかりが少ない。話の前提は第1工場に置きます。この資料の数値は第1工場の目標であり、第2工場の稼働を前提にした提案は、相手の資料と時間軸が合いません。

調達する側に立つ人にも、手を動かせるところがあります。自社の間接材の分類表を開いて、設備メンテナンスとパーツ洗浄がどのカテゴリに入っているかを見てみる。JASMの資料にすら間接材の定義文はありませんでした。自社の台帳で線がどこに引かれているかは、生産技術や保全の担当者ならその日のうちに確認できます。

この一枚は2025年1月で止まっている

「2026年目標50%」が指しているのは、2025年1月に置かれた目標です。

2026年9月の今、間接材の現地調達が実際に何%まで来ているのかを、この資料は答えていません。140社にも同じことが言えます。2024年2月時点の数字です。年をまたいで引用するときに、ここが一番ずれやすい。

第2工場については、資料の外で話が動いています。確かさの段階が三つに分かれるので、分けて書きます。

3nmプロセスの導入は、TSMCの2025年度年次報告書に書かれています。「We are now planning to use 3nm process technology for production at JASM’s second fab, currently under construction in Kumamoto, to meet strong demand driven by AI」。一次資料に載っています。ただし動詞は planning to use。計画段階であって、確定ではありません。

2026年2月5日の面会も一次で裏が取れます。首相官邸の英語版サイトに、高市首相がTSMC会長兼CEOの魏哲家(C.C. Wei)氏の表敬を受けたと記録されています。ただしそのページには熊本も3nmも金額も出てきません。面会があった事実だけが一次です。

残る投資額と量産開始時期は、報道の段階にとどまります。しかも報道どうしが揃っていない。EE Times Japan(2026年2月6日)は2027年の本格開始を目指すと書き、マイナビニュース(2026年4月1日)は2028年に量産を開始する予定と書いています。後者は、台湾の経済部が2026年3月31日に計画変更を承認した件を扱った記事で、2月5日の面会とは別の出来事です。一年ずれた二つの記述が、別々の出来事を根拠にして並んでいる。ここを「報道は揃っている」と要約するわけにはいきません。

注意が要るのは、4ページ目にある「約200億ドル(約2兆9,600億円)」との関係です。この金額に付いた注は「*2 :1米ドル=148円で計算(当時)」という為替の説明だけで、第1工場と第2工場のどちらを指すのかを示す記述は資料にありません。同じページの他の三つの数値には「第1工場と合算」の注が付いているのに、投資金額には付いていない。範囲は資料からは確定できない、というのが正確な状態です。第2工場の投資額として流通している数字と足し合わせると、時点も工場の範囲も出どころも違う数字を混ぜることになります。


製造業の視点から

  1. 「60%」を引くときは但し書きごと運ぶ:対象は間接材、値は第1工場の目標数値。この二つを落とすと、意味の変わった数字が流通します。
  2. 語彙を調達側に合わせる:設備メンテナンス、パーツ洗浄、化学品充填作業。JASMが自社資料で使った分類語であり、提案書の見出しに使える語です。
  3. 時点を明記する:資料は2025年1月27日、140社は2024年2月時点。目標値と達成実績を混ぜない。
  4. 間接材以外は別の一次資料を探す:この一枚が答えているのは間接材の話だけです。それ以外を知りたければ、別の資料に当たるほかありません。
  5. 第2工場の話は確かさの段階で分ける:3nm導入はTSMCの年次報告書に計画として明記、2026年2月5日の面会は首相官邸が記録、投資額と量産開始時期は報道段階で媒体間に食い違いがあります。

今後の展望

答え合わせができるのは、JASMなり官民連携フォーラムなりが同じ形式のグラフを更新したときでしょう。2026年目標として置かれた50%の隣に、2026年の現況値が入る。そのとき初めて、この曲線が計画線だったのか実績線だったのかが見えます。年次報告書に書かれた3nmの計画が実行に移れば、「第1工場の目標数値」という但し書きの射程も変わってきます。次の一枚が出るまでは、この数字を「間接材・第1工場・2025年1月時点」の三点セットで持っておくのが安全です。

参考資料

T&C

techandchips

techandchips supports Kumamoto semiconductor cluster manufacturers with factory automation built on their existing systems — equipment/system integration (EAP/MES), visibility, predictive maintenance, traceability, and AI document automation.

See more posts by this author →
Share this article